ロンドンで幽霊を無視した友人の話。(実話)
(文庫本第1巻「関東心霊庁除霊局/自走式人形お春改」のあとがき用に書いてはみたけど、ページ数が足りていたので、結局、入れなかった話)
「ロンドンで幽霊を無視した友人の話」(本当にあった話)
その昔、大学時代の友人Mが、ロンドンの金融会社で働いていた。
日本の会社から外資系企業に転職して、ロンドン勤務となったのだ。
「ロンドンにいる間、せっかくなんだから、みんなで遊びに来いよ」
Mにはそう誘われていたが、当時のオレはスケジュール的に長期休暇を取ることができない。結局、他の友人2人がロンドンに行くことになった。
友人2人は、Mと昔のようにつるんで、ロンドンでの滞在を楽しんだ。
ある日、誰かが「ロンドンといえば、幽霊」と言いだしたので、みんなでロンドン郊外の「幽霊が出る」といわれている、小さなホテルに1泊することにした。
Mは、幽霊の類いを全く信じておらず、ホラー映画を観ようが怪談を聞こうがお化け屋敷に行こうが、面白がることはあっても、怖がることはない。
それに霊感が無いようで、どんな心霊スポットだろうが、気軽に肝試しに行ける男だった。
さて、幽霊の出るホテルに泊まったところ、深夜、3人が寝ている寝室に、小さい女の子が入ってきた。
女の子は寝室をウロウロとして、それぞれのベッドのなかに手を入れると、足を触っていった。
「すごく怖かったし、女の子の幽霊の手はとても冷たかった」
帰国後、友人2人は恐ろしそうにオレに語ったが、両人ともホテル側が用意したヤラセだと思っているようではあった。
しかし、その翌朝、ロンドンの友人Mは2人に対して、「女の子って何のこと?」と言ったそうだ。
Mは部屋に入ってきた女の子に全く気づいていなかったのだ。
なにしろMは横になったら1分以内に眠ってしまうくらい、寝付きが良い。その上、少々のことでは起きない。
学生時代、大学寮の自室で昼寝をしているところ、寮生数人にベッドごとかつぎあげられて、外に連れ出され、昼間の広場にベッドごと置き去りにされても目覚めなかった。
男子学生や女子学生に周りを取り囲まれ、ようやく起きた時は、広場に歓声が上がったほどだ。
友人2人が笑って言った。
「あいつ、心霊スポットで眠ったとして、本物の幽霊にどんなに揺すられても、起きないだろうからな」
(おわり)
最初は「心霊庁」ではなかった話。
「関東心霊庁除霊局/自走式人形お春改」は2010年に書かれたものです。
最初のタイトルは違っていて、「関東復興庁除霊局/自走式人形お春改」でした。
関東「心霊庁」ではなくて、
関東「復興庁」だったのです。
1923年の関東大震災のあとに復興庁ができたので、架空の心霊災害「関東大霊障」のあとにできるという設定で、「関東復興庁」とつけました。
ところが、2011年に東日本大震災がありました。
本物の復興庁ができるはずだと考え(実際にできました)、震災のイメージに引っ張られないように、「関東心霊庁」と変更しました。
あの震災前に考えた、完全なフィクションです。
あと、いつか滅ぶかもしれないという、もっと暗い世界の設定だったのですが、
登場人物は希望を持っているようにしました。
(今後の展開は、わかりませんが……)
(おわり)